好きな本のこと

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本好き、否、ビブリオマニアに捧げる本(生田耕作訳『愛書狂』)

本好き極まり、狂っちゃってる皆さんが登場する短篇集。 
愛書狂 (平凡社ライブラリー)

愛書狂 (平凡社ライブラリー)

 
収録されているのは下記の5篇です。
①『愛書狂』グスタフ・フローベール
②『稀覯本余話』アレクサンドル・デュマ
③『ビブリオマニア』シャルル・ノディエ
④『愛書家地獄』シャルル・アスリノー
⑤『愛書家煉獄』アンドルー・ラング

どのお話にも相当な愛書狂(=ビブリオマニア)が登場するのですが、①〜③の物語にはモデルがいるということが驚きです。
②の物語はショッキングではないのですが、①と③はかなりショッキングなものでして。
ひとりは本のために犯罪を起こし、ひとりは本のために病気にかかり死んでしまう…。

『愛書狂』の主人公が古本の競りで負けた際の
その男は、手を懐に入れ、首垂れていた。取り出したとき、その手はなまぬるく湿っていた、爪の先に肉と血をくっつけていたのだ。(27〜28頁)
と、いうまでの執着心。
まさに、ただの本好きでは到達できない、愛書”狂”です。

でも、本好きの方、特に古本好きの方には少し気持ちがわかるのではないでしょうか。
昨日まで棚にあった本が、1日だけ購入を迷ったために売り払われていたときの、歯ぎしりしたくなる気持ちを幾倍にも膨らませると、気がついたら爪の先が血まみれなのかもしれません。

④、⑤は、①、②のようなショッキングさはないものの、本好きには耐え難い拷問のような物語。

自分がほしくない本を「買うんだ!」と悪魔の言う通りに買い込み、借金を背負い、自らの愛書を手放すという地獄のような目に遭う、という夢を見るというもの。

夢オチであるものの、本好きにとっては体を張ったお笑い芸人のテレビ番組よりも生々しく、「絶対こんな目に遭いたくない!」と身震いがするような世界です。

②を除き、愛書狂の主人公は皆、不幸になる物語でした。
ただ、本が好きで本を集めているだけで、罪のない人々なのに…?とも思うのですが、④の物語に、興味深い記述がありました。
彼の言う<罪のない趣味>は実際には地獄堕ちの大罪をほとんど一つ残らず、いずれにしたところでそのうちの現在にも通用するものを多く含んでいたからだ。たとえば隣人の蔵書を欲しがったことがないとはいえない。その機会があれば本を安くで手に入れ、それを高値で売り払い、文学を商売の位置にまで引き下げたこともある。古本屋の無知に付け込んだことも。嫉み深く、他人の幸運を恨み、失敗を喜ぶ。(略)貪欲で、傲慢で、嫉み深く、吝嗇で、そのくせ浪費家で、おまけに取り引きにかけては抜け目なく、教会が<地獄堕ち>と認める罪科のほとんどすべてにかんしてブリントンは有罪だった。(150〜151頁)
訳注いわく、地獄堕ちの大罪とは、「カトリック教で定められた七つの大罪。すなわち、傲慢、淫欲、嫉妬、激怒、吝嗇、暴食、怠慢」のことなのですが、愛書狂はこれらの大罪を犯しているから、不幸になっちゃう、とでも言えるのかもしれませんね…。 
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ちなみに、この本に出会ったのは、奈良市にある古書店の「朝倉文庫」さんでした。
 
近鉄奈良駅から歩いて5分ほど位置にある古本屋さんです。
小説や人文系の本が多い印象の古本屋さんで、1冊ずつ丁寧に白い紙がかけられ、手書きでタイトルと著者が書いてあります。

本が大切に大切にされている古本屋さんで『愛書狂』に出会えたことに、何かの縁を感じずにはいられないものです。